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途中までは集中できていたのに。僕がため息をつくと、ソファで積み上げた本をめくっていた春日が顔を上げた。
「どうしたの?」
「何でも」
「何でもないのにため息つくのか」
幸せが逃げるよー、と使い古された台詞を付け加えてから、春日はうーんと伸びをした。
「私きゅうけーい。葵くんも何か飲む?」
「何かって紅茶しかないじゃん」
「それがねー、今日はコーヒーもあります!」
「まじか」
「まじです。田所先輩が昨日持ってきてくれたんだよね」
「じゃあそれ」
いつもお馴染みお手頃価格のティーバッグ。ではなく、本日はコーヒーとなった。
手を伸ばして電気ケトルのスイッチを入れる。春日がコーヒーの封をあけると、ふわりといい匂いが鼻をくすぐった。読めなくなった文字の羅列は目に痛い。僕は論文を机に伏せて、椅子の背もたれに身体を預けた。
曇った灰色の空の下で、外は何とか昼間の明るさを保っている。あれから何度も経験して、雪景色も珍しくはなくなった。ただいつだって、同じものは訪れない。
春日はソファからブランケットを持ってきて、僕の斜め向かいに腰を下ろした。主が離れたソファでは本が崩れて、堂々と場所を占領する。
「雪すごいね」
「ああ」
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