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ひやりとした空気に起こされて、音がみんな吸い込まれてしまったようなあの静けさを、僕は生涯忘れないだろう。
あれはきっと、感覚が期待に踊っていたのだ。日頃であれば思わず耳を澄ませて、誰かいないかと気配を探してしまうような恐怖は微塵もなかった。今までに一度だって知らなかった何かを、漠然と高鳴る感覚を、僕は一人飲み込んだ。
ゆっくりと身体を起こして、床にそうっと足をつける。冷えきったフローリングと顔を合わせた足の裏はぺたりと音をたてた。
一歩、また一歩と、僕はうすぼんやりした窓に近づく。
両足を窓の前へ。深呼吸を一つ。カーテンに手を伸ばして開け放つと、しゃらしゃらと金具が鳴いて目の前に景色を連れてきた。
一面の真っ白がきらきらと輝きを放つ。まだ朝になりきっていない町で、静かに、静かに、白い透明が羽を休めていた。
僕は思わず息をのんだ。
ああ、夜のうちに雪が降ったのだ、と――僕は数秒してからようやく理解した。知っていたことに頭が追いつけないほど、僕はその光景に心を奪われていたのだ。
もし冷静になって考えていれば(というよりも、今の僕であったならきっと)これから何度も体験するであろう雪景色にどうしてそんなに感じ入るのか、などと思ってしまったかもしれない。けれど幸運なことに――これは誰が何と言おうと、たとえ将来の僕が否定したとしても、本当に幸運なことに――その頃の僕は、今よりずっと子どもだった。無知で、単純で、感情にずっと素直だった。
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