二人の距離と俺との距離と

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二人の距離と俺との距離と

俺は寝ずに一晩中考えた。 風呂屋はなくなるわけだから凛太朗の告白を断る理由もなくなったわけだ。 だけど昨日断っておいて翌日に撤回してOKするとか、普通に考えて相手をばかにしてる。 心を弄んだって思われても仕方のない振舞いだ。 そうは言っても凛太朗と俺は両想いで、何の障害もないわけだから付き合ってもいいわけで。 と、そんな事をぐるぐるぐるぐると一晩中考えていた。 「おは、よ」 凛太朗だった。 昨夜大分泣いたのだろう目元が赤い。 やっぱり――俺の事はどう思われてもいいから、俺の本当の気持ちを言うべきなんじゃないのか? 「凛太朗、あの、さ…………」 「凛ー!早く教室行こうぜっ!」 声をかけようとしたところで横から邪魔が入った。 凛太朗の従兄弟の辻隼人(つじはやと)だ。 やつは何かと凛太朗に纏わりついてきてイライラする。 辻が凛太朗の肩に腕を回した。 いつもはやんわりと凛太朗はそれを拒む。 だけど今日は何も言わない。 辻にされるがままだ。 ―――え? 「凛た――――ろ?」 「凛、早く行こうぜ?」 「あ、うん。じゃあ佐倉くん、佐倉くんも急がないと遅刻しちゃう、よ?」 ―――――――え? 二人の距離感は何だ? 凛太朗の隣りは俺の場所だったろ? 昨日までは辻の事は従兄弟とはいえそこまでの距離感じゃなかったろ? ―――どうして。 俺が凛太朗の告白を断った、から…? もう俺が好きって言っても遅いのか? 俺たち―――もう、ダメ……なのか? 友だちだった頃の距離にも俺は入れない、のか? 遠ざかっていく二人の背中を呆然と見つめる事しかできなかった。
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