Side 隼人

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Side 隼人

俺の実家は他県にあるため高校の間は従兄弟の凛太朗の家に厄介になっている。 親戚の集まりで会う凛太朗は小3の夏辺りから佐倉の話ばかりするようになった。 佐倉の話をする凛太朗の顔がまるで恋する乙女みたいで、凛太朗の傍に自分がいなかった事をひどく後悔した。 だから高校からはどうしても凛太朗の傍にいたくて、我儘を言って同じ高校に行く事にしたのだ。 凛太朗と初めて顔を合わせたのは6つの頃で、凛太朗は小さい頃は今よりもっと細っこくてすぐに泣くやつだった。 俺はすぐに泣く凛太朗が鬱陶しくてたまらなかった。 たまに集まる田舎なんて都会っ子の俺にはひどくつまらなかった。せめて外に出てもっと危険な遊びもしたかったし、冒険もしたかった。 だから俺は凛太朗を置いて一人で外に出かけてしまったんだ。 それで裏山に入って――、それを凛太朗が追いかけて来て、――――途中で雨が降ってきて俺たちは偶然見つけた木の(うろ)で雨宿りをする事にした。洞は小さい子どもが二人ぎりぎり入れるくらいの大きさだった。 雨足はどんどんどんどん激しくなり雷も鳴り始めて、雨に濡れてしまった身体は冷たく、心細さを誘った。 俺たちは身を寄せ合い洞の中で雨が止むのをひたすら待った。 俺はいつまでも止まない雨に、自分の中にある心細さを凛太朗のせいにして自分を守ろうとした。 泣き虫の凛太朗が一緒だなんて最悪だ。一人だったら雨の中走って帰れたのに。いつもこいつが俺の邪魔をする。 なのに凛太朗の方を見ると、凛太朗は大きな瞳に涙をいっぱいためて俺と目が合うとにっこりと微笑んだんだ。 「ふたりだからだいじょうぶだね。こんなときはおうたうたうといいんだよ?いっしょにうたお?」 寒さにか心細さにか少し震えた声だった。 それでも泣かずにめいっぱいの笑顔で俺を励まそうとしている。 そんな凛太朗の姿に、俺がしっかりしなくちゃ。こいつを家に帰してやらなくちゃ。 そんな思いが沸いてくるが、それとは裏腹にこのままずっと家に帰れないんじゃないか、という恐怖が膨れ上がる。 ぽろりと零れる涙。 慌てた凛太朗が俺の頭を撫でてくれる。 「おうた、むり?ぼくだけうたう?」 弱いと思っていた凛太朗。すぐ泣く泣き虫のくせに――。 こんなの…こんなのは反則だ―――――。 俺は凛太朗を抱きしめて大声で泣いた。 凛太朗も我慢できなくなったのかつられるように泣き出して、二人でわんわんと泣いた。 その声に気づいた大人たちに無事保護されるわけだが、あとで俺だけが親にこっぴどく叱られた。 叱られて悲しかったけど、それ以上に安心して寝てしまった凛太朗のほっぺがマシュマロみたいで、どんな夢を見てるのか笑うとえくぼができて可愛くてたまらなかった。 それから俺は従兄弟としてではなく、恋愛的な意味で凛太朗の事を見ていた。 この愛しい従兄弟を俺が守りもう二度と泣かせる事がないように。 なのに、昨日凛太朗が目を真っ赤にさせて帰って来たんだ。
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