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もう一度最初から
「なぁ、お前さ、どういうつもりだ?」
授業も終わり、帰り支度をしていると辻から声を掛けられた。
辻の声は怒りに震えていた。
「凛がお前に告白したの断ったくせにいつまでも―――!凛に気がないならこれ以上凛の心を惑わすなよっ」
黙ったままの俺の胸倉を掴み、そう叫ぶ辻。
「お前には―――関係ない、だろ」
辻に凛太朗の事をあれこれ言われるのは嫌だった。
無視して帰ろうとするが辻はなおも叫ぶ。
「あるから言ってるんじゃないかっ。凛は―――凛はお前の事が本当に好きなんだっ」
「―――お前ら…付き合ってるんじゃ…」
俺の言葉に一瞬だけぐっと詰まる辻。
「―――そうだったら……そうだったらどんなにいいかっ。俺は凛の事がずっとずっと好きだった!だけど、ダメなんだよっ凛がお前じゃないとダメだって泣くんだよ…っあれから夜もあまり眠れてないみたいで……心配でたまらない。けど、頑張ってみたけど俺じゃダメなんだよ……だから――っ!」
そう叫ぶ辻の顔は今にも泣きだしてしまいそうに悲痛に歪んでいる。
辻の言葉にひゅっと喉が鳴った。
「…………っ」
「だからぁー!俺は凛が大事だから、凛を諦めてやるって言ってるんだっ!漢を見せろよ佐倉ぁああっ!」
「―――!!」
俺は走った。辻に背中を押されるように、無我夢中で走った。
*****
凛太朗はすでに保健室にはいなくて、探し回ってやっと見つけたのは下駄箱でだった。
「凛太朗っ!!」
「―――佐倉、くん?」
驚き見開かれる瞳。そしてすぐに逃げ道を探して視線を彷徨わせている。
俺は凛太朗を逃がしてしまわないようにぎゅっと抱きしめた。
「え?え?ど…どして…?」
驚き身じろぐが、逃がさない。
「ごめん。俺、俺さ、告白断ったのは…風呂屋の息子だったから……男と付き合うってダメだと思った。だから――断った。けど、それはもうよくて…」
二人の間に沈黙が続く。
お互いの鼓動だけが制服ごしにどきんどきんと煩く響く。
俺は黙って凛太朗の瞳を見つめた。
凛太朗は瞬きもせず揺れる瞳で俺の事を見ると静かに口を開いた。
「佐倉くん…。―――もういいの?ダメじゃないの?」
「『桜の湯』は店じまいしたんだ。だから、俺は好きにしていいって。だからさ、やり直しをさせてくれないか?」
「やり直し…?」
俺は一旦凛太朗から身体を離した。
そして―――告白のやり直しをする。今度は俺から。
3か月前凛太朗から告白された場所。
凛太朗の手を取り屋上へと連れて行った。
「凛太朗、俺はお前の事が好きで好きでたまらない。凛太朗に避けられるのも嫌だし、今までみたいな友だちに戻るのも嫌だ。ずっと誰よりもお前の一番近くにいたい。俺の勝手な都合でお前を傷つけてしまったけれど、もう一度チャンスを貰えるなら――俺と恋人になって下さいっ」
凛太朗は声もなく涙を零しながら何度もなんどもただ頷いた。
きゅっと結ばれた唇が愛おしい。
俺はたまらず凛太朗を抱きしめた。
今度こそ、凛太朗に悲しい涙は流させないから。
何があっても守っていくから、だからいつまでも一緒にいよう。
そんな想いを込めて凛太朗の涙を指でそっと拭い、結ばれた唇をほどくように触れるだけのキスを繰り返す。
やがてほどかれた唇。
それからキスは深くなり、離れてしまい苦しかった時間を埋めるように甘いキスはしばらく続いた。
-終-
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