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「どうして池に入ったの。もうちょっとで愛美ちゃんは死んじゃうところだったのよ! そうなったらパパにもママにも会えなくなるんだよ。ママは愛美ちゃんがいないと生きていけない! もう二度とママたちを悲しませるようなことはしないで」
ずぶ濡れの愛美をユリエが抱きしめる。
池で溺れている愛美を直也がすんでのところで助け出した。気がつくのがもう少し遅ければ愛美は池の底に沈んでいたはずだ。
「おねえちゃんが一緒に探してって言ったの」
「え」
直也とユリエが同時に声をあげる。
「ほら見て」
突き出された愛美の手には、毛むくじゃらの茶色い塊が握られていた。
「それ、どうしたんだ」
直也は愛美が手にしている茶色い塊を指差した。
「おねえちゃんが探してたの。池の中にあったの愛美がみつけたんだよ」
「愛美ちゃん、ちょっとママにも見せてくれる」
ユリエが愛美の手からそれを引っ手繰っるようにして取り上げた。
「ママ、それ愛美のよ。おねえちゃんが愛美にあげるってくれたの。クマさんのぬいぐるみ」
「ぬいぐるみ? そうみたいね」
抗議の声をあげる愛美を制し、ユリエは直也に手渡した。
「ほんとだ。もしかすると池で亡くなった子が持っていたのかもしれない」
池の底に眠っていたクマのぬいぐるみはそれとわからないほどにボロボロになっている。
だけど女の子はなぜ愛美にこれをみつけさせたんだろう。
「帰ってきれいにしてあげようね」
直也は愛美に返した。
「うん。おねえちゃんもクマさんをきれいにしてあげたかったんだよ」
愛美がうれしそうに笑った。
「え」
まさか。
「砂場でクマさんが汚れたから、おねえちゃんが池できれいに洗ってあげようとしたんだって」
それで女の子は池に……。
「あら? 愛美ちゃんの長靴が片方ないわ」
ユリエが愛美の足元を見た。
たしかに愛美は片方しか履いていなかった。右の長靴を履いていない。
「愛美ちゃん」
誰かが愛美を呼んでいる気がして、直也は池に目を向けた。
ああ。直也の目が見開かれる。
あれは……
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