池にまつわる話

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「パパ、抱っこ」 「ちゃんと歩くんだよ」  玄関で愛美が抱っこをせがむのを留める。 「あ、そうだ。愛美にプレゼントがあったんだ」  雨がつづいていたこともあり、ユリエが数日前に長靴を買っていたことを思い出した。 「ほら長靴があるんだよ」  ピンク色の長靴を下駄箱から取り出した。それは愛美が好きな色でもあった。 「わ~!」  愛美はおニューの長靴を気に入り、すぐに履くと言って飛び跳ねた。  外に出ると、鈍色の雲が重く垂れこめている。路面にはいくつも水溜まりができていた。  公園は自宅から西に百メートルほどの場所にある。  薄暗い民家がぽつぽつ並ぶ狭い道の途中にスーパーがあり、さらに進むと左手に視界が開ける。そこが公園だ。  手入れの行き届いていない公園はところどころ背の低い雑草が生えている。ぬかるんだ泥にはあちこち水溜まりもできていて、スキップするように先を歩く愛美の長靴のあとが点々とついていく。  公園にはやはり誰もいない。閑散とした公園に愛美の笑い声だけがこだまする。 「パパ、お団子ができましたよ。食べてください」  砂場で遊ぶ愛美が、少し離れたベンチに座る直也のところまでせっせと泥団子を持ってくる。 「ありがとう。もぐもぐもぐ」と直也は食べるふりをする。  雨のおかげで泥団子は握りやすく、愛美は作っては直也のところまで届けてくれる。まったく飽きる様子はない。  いったいいつまで繰り返すのだろうか。  先週仕事が忙しかった直也は眠気を催してきた。  ぼんやりしてきた視線の先で、愛美は誰かと話すように砂場でひとり遊んでいる。友だちがいれば文句なしにいいところなんだけどな、などと考える。  次第に瞼が重くなり、うつらうつらしてきた。
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