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女の子
もうい~かい。廊下のほうからパパの声が聞こえる。
「ま~だだよ」
愛美は大きな声で答える。
どこにしようかな。リビングを見回す。キッチンではママが朝ごはんを作っている。
愛美はリビングの厚いカーテンの陰に隠れた。隣には三歳の愛美より少し年上の女の子が立っている。その女の子はいつからか愛美の家に遊びに来るようになった。
「おねえちゃんも座って」
愛美は女の子のことを「おねえちゃん」と呼んで慕っている。
女の子は家の中だというのに片足だけ長靴を履いていた。ピンク色の長靴。裸足のほうの足はいつも濡れており、床に滴を垂らしていた。
「ねえ。愛美ちゃん。ここだとパパに見つかっちゃうよ」
女の子がひそひそと囁く。愛美は窓を向いてしゃがんでいる。
「しっ。しゃべっちゃダメ。はやく座って」
愛美がもう一度、女の子に声をかけたときだ。
「愛美、みっけ」
パパがカーテンを開けた。
「あ~あ。みつかっちゃった」
愛美は不満げな声をあげる。ふと隣を見ると女の子の姿はない。
あれぇ? 愛美はカーテンをばさばさと揺すってみた。
どこにもいない。
だが愛美は気にすることはなかった。なぜなら女の子の姿が見えなくなることはよくあることだからだ。その女の子はふらりと現れ、いつのまにかいなくなるのだ。
「パパ、もういっかいかくれんぼしよ」
愛美はバタバタと家の中を走り回った。
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