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何のラベルも貼られていない、のっぺらぼうの黒い瓶だった。
おそらくは昔から懇意にしている地元の蔵元の隠し酒だろうと、陽光は踏んだ。
その蔵元の息子は陽光と柊との小中校の同級生だった。
中学校時代の柊に気があったと、陽光は今でも頑なに信じている。
「――本当に酒だけでよかったのか?」
窺うように言う柊の、柳の如き細眉がひそめられている。
陽光は座卓を挟んで柊の真向かいに陣取り、あぐらをかいた。
「あぁ、わざわざ泉さんの手を煩わせるまでもないさ」
「陽光までもがそう言うから、腕の振るい甲斐がないってうちの板長がぼやいていた」
視線は酒瓶を開ける手元へと落としながら、柊も又ぼやいた。
いかにも若旦那然とした口振りに陽光は思わず笑う。
それを少しも隠そうとせずに言った。
「でも、去年オンラインショップを立ち上げて旬の名物料理をお取り寄せ可能にしていたじゃないか?今年のおせち料理だって配送したんだろう?」
「――知っていたのか?」
柊の心底驚いたような表情は陽光のさらなる笑いを誘う。
元が隙のない整った容貌なので落差が激しく――、見ていて楽しい。
「時どきホームページをチェックしてた。おまえが若旦那になってからは特に充実してきたな」
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