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柊は心持ち上を向いて話し始めた。
「四代目を継ぐ少し前に親父から聞いたんだ。照夫おじさんのところに三人目の子供、――つまり陽光が生まれると分かった時、親父が照夫おじさんに頼んだそうだ」
「一体何をだ?」
陽光は全くの初耳だった。
父親の照夫とは今も昔も変わらずに、口を開けば仕事関連の話ばかりをしていた。
陽光もそれが当たり前だと思っていた。
自分が生まれる前の話など父親から聞いたことはおろか、今のいままで聞きたいと思ったことすらもない。
しかし、柊が言うなら全くの別だ。
おそらくは柊にもかかわることなのだろう。
陽光は柊のことは全て知っておきたいと、――知りたいと思う。
柊は右腕だけを湯から出して言った。
少しだけ熱いのかも知れない。
湯を弾く肌がほんのりと赤い。
その腕を後ろ手に陽光へと伸ばした。
「照夫おじさんにはもう二人も男の子がいるから、もしも三人目も男の子だった場合はウチに、岸間の家に養子にくれないか?って」
「ウチの親父は何て答えたんだ?」
「ただ一言、『わかった』って。今頃、陽光が『銀柊荘』の四代目になっていたかも知れない」
「・・・・・・」
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