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初めて聞いた時は柊も又、自分の父親ながら『全方向抜かりなし』の用意周到さに言葉を失ったものだ。
陽光の驚きは如何ばかりかと思い遣る。
「生まれてくるのが男だろうが女だろうがまるで関係なしにだ。全く――、しつこいくらいだよな」
「いや」
柊は、深謀遠慮もここまでくると立派な執念だと思った。
すなわちそれは父親である桂一の、照夫に対する執着だと柊は考えていた。
陽光は短く否定をした。
本心からだった。
桂一の、そのしつこさに心から感謝した。
柊と今一緒にいられるのは確かにそれのおかげだ。
「ありがとう」
柊も陽光と同じように短く礼を言った。
陽光の返事は柊の左の首筋への口付けだった。
実にくすぐったげに大きく身動ぎをした後で、柊が続けた。
「患部だけを取り出して、おれだけが母の胎内に残された。縫い合わされた腹が日にひに大きくなっていくのはさぞかし痛くて辛かったと思う」
そこで柊は小さなため息を吐いた。
その母の中にいた頃の苦しみを憶えているかのような、切ないため息だった。
「ある時にふと、おれが『産んでくれてありがとう。感謝している』って伝えたら、母は何て言ったと思う?」
「さぁ・・・・・・?」
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