帰郷

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帰郷

 五嶋(いつしま)陽光(あきひろ)にとっては子供の頃から数え切れないほど上り続けた坂道だった。 今までにこんなに雪が降り積もったことがあっただろうか?と、陽光はざっと思い返してみる。  長靴を履いた脚はふくらはぎ半ばまですっかりと(うず)もれている。 夜になり凍った雪の冷たさは分厚いゴムをも易やすと通り抜けてくる。 正直、痛いくらいだった。  もしかしたら大雪の冬もあったのかも知れない――。 優に十数年以上はまともに歩いていなかったことを顧みて、陽光は独り苦笑した。  陽光が生まれたのは三代続く花火職人の家だった。 陽光本人は地元の高校を卒業してすぐに父親へと弟子入りをした。 三年間に渡る見習い期間が終わったと思ったら、今度は知り合いの同業者の下へと『武者修業』に出された。  今、勤めている所で既に三か所目だった。 そういう事情もあって地元へと帰ることがすっかりと(まれ)になってしまっていた。 人手が足りない時に一方的に父親に呼び戻される以外には――。  今回は年明け早そうの仕事だったので、陽光は十数年振りに年末年始に帰省をした。 大晦日(おおみそか)から元日にかけて両親と二人の兄たちと家族揃って、神社へと初詣、――いわゆる二年参りに出掛けた。 その際に引いたおみくじは大吉だった。
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