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いわゆる家族風呂なのだろう。
大の大人が優に四人は入れ、――それでもまだなお有り余る広さと大きさとの湯舟だった。
柊は風呂の縁へと片膝をついた。
そこに置かれていた手桶で二度、三度と湯を汲み、体へとかける。
そうしてからゆっくりと湯の中へと体を沈めていった。
絵に描いた様な『温泉への入り方』だった。
まるでそんなレクチャー映像を見せられている温泉初心者のように、陽光は黙って柊の姿を眺めていた。
既に肩までしっかりと湯に浸かった柊が、陽光へと顔を声を向けてくる。
「寒いだろ?早く入れよ」
柊のその言葉で陽光は初めて寒さを覚えた。
遅れて、鳥肌が二の腕に立った。
陽光は柊よりはだいぶぞんざいにかけ湯をし、湯舟へと飛び込む。
それなりの広さと大きさとだったが、大の大人の男が二人も入ればさすがに湯が溢れた。
ザァザァとこぼれ出ていく湯を見ているといつも、「湯水のごとく」という言葉を思い出す。
「もったいない」とまでは思わないが、贅沢な感じが何とも落ち着かなかった。
陽光が見れば柊は実に慣れたもので、縁に後ろ頭を乗せて天上を仰いでいる。
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