朝酒

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朝酒

 容器(入れ物)の造形もさることながら、風呂に入りながら酒を飲むという行為自体に陽光は面食らう。 その姿を柊は面白そうに眺めながら酒を注いだ。  柊が雪ダルマを掲げて見せる。 陽光はそれを合図にお猪口の中身を一息で干した。 ――文字通りに一口酒だった。  雪ダルマの中身は紛うことなき正真正銘の酒、日本酒だった。 まさか温泉で燗がつけられていたわけではないだろうが、常温よりも(ぬる)くまろやかに陽光には感じられた。  柊が陽光を見て笑う。 「な、ちゃんと酒だろう?」 「・・・・・・」  陽光は黙って、柊へとお猪口を差し出した。 お代わりの催促だと察した柊が、再び雪ダルマにお辞儀をさせる。 満たされた酒をこれまた一口で陽光は飲み――、干さなかった。 柊へと口付け、口移した。 「なっっ⁉」  思わず絶句した柊が雪ダルマを木桶の中へととっさに帰したのは、さすがの反応、――反射だった。 半ば無理矢理に柊へと一口酒を飲ませ終えてもまだ、陽光は柊の口の中へと居座り続け我が物顔でのさばっていた。  陽光の舌が出て行って、柊はようやく息を取り戻す。 一口どころではない酒を飲まされたかのように、柊の頬は顔は赤くなっていた。
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