朝酒

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 その時の柊は酒の勢いでも何でもいいから、陽光となることを期待していた。 本気で酔っ払わないまでも、いっそのことそのフリをしようか?とまで思い詰めた。 そんないやらしい自分に気が付いていて愕然とし、――そして自己嫌悪に陥った。  でも、今は違う。 その時の酒とは味はもちろんのこと、飲んでいる状況(シチュエーション)がまるっきり違う。 柊は、酔おうと思えば安心していくらでも酔っ払うことが出来た。 本心の全て、陽光へとさらけ出すことが出来た。  柊の過去の葛藤など知る由もない陽光は木桶へと腕を伸ばし、引き寄せる。 手酌でお代わりを注ぐのかと柊が思いきや、お猪口を中へと返した。 「分かれよ・・・・・・バカ」  『穴があったら入りたい』ならぬ、『お湯があるから潜りたい』勢いで柊は大いに照れにてれる。  柊のつぶやきは小声過ぎて、陽光にはまるで聞こえなかったようだ。 完全に明後日の方、そっぽを向いてしまった柊の右の首筋を目で滑り落ちる。 手でもそおっと撫でつけた。 「――跡、つけたな。すまない」 「え?」  陽光の指先は首の付け根、鎖骨の際で(とど)まった。 「着物で隠れる場所だから大丈夫だとは思うが・・・・・・すまなかった」 「・・・・・・」
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