生まれる前から

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生まれる前から

 陽光に重ねて謝られて柊は黙ってうなずく。 律義にも消そうとしているのか、指先がその箇所を何度もなんどもなぞる。 陽光が言う跡よりも、頬が顔が赤いのが自分でも分かった。  衣服で隠れようがなかろうが、どんな場所であっても跡をつければいいと柊は思う。  いっそのこと、隙間なんかなくなるくらいにベタベタとつけてくれればいい。 そうして、陽光(自分)のものだという印を体の上に刻み込んでくれればいいのに――。  そこまで、そうまで考えて柊は顔だけとは言わず体までもが赤くなる思いだった。 『自分のもの』で、ふと思い出す。  顔の向きを正反対に、全く陽光の方へと移動(スライド)させた。 「そう言えば、陽光は照夫おじさんからおれたちが生まれる前の話を聞いたことがあるか?」 「いや――、何だそれは?」  話の枕として一応、そう前置きをした柊だった。 しかし、昨夜からの陽光の態度や口振りから察するにおそらくそうだろうと当たりをつけていた。  陽光がまんまと食いついた、もとい興味を持ったのに気をよくした柊はその厚い胸板へとすっかりと背中を預けた。 お湯の温かさに加えて、陽光の体温をも感じられるようで全くの手放しで安心する。
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