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「それで? 中には入ってみたのか?」
突然の呼び出しにも関わらず、30分ほどで同じ大学のコウキが駆けつけてきてくれた。タクトより頭二つ分くらい背が高く、顔も小さい。スタイルのいい男である。黒髪黒瞳で、目つきも鋭いくせに、今は心底心配そうに自分を見てくるので、じわりとうれしさがこみあがってきてしまった。
「……ううん。まだ。なんか怖くてな」
「いや、それがいい。まだ中にいるかもしれないからな」
言いながらコウキはドアに手をかけると、何事もなかったように開けようとした。
「おい待てって! 」
ほとんど後ろから抱きつくようにして、コウキを止めた。頬と頬が触れ合いそうになって、2人とも一瞬、固まる。まず……っ、とタクトは頬が熱くなるのを意識するより早く叫んだ。
「バカ! まだ中にいるかもしれないってお前も言ったのに、急に開けて誰か飛び出してきたらどーすんだよ? お前がケガするだろ?」
「ご、ごめん……っ」
しっかりしてそうに見えるのに、たまにこうして抜けている。そういうところが可愛いんだよなこいつは。そう思ってから、急に照れくさくなって、わかればいいんだよと呟きながら、コウキから体を離した。
背中を向けて、スマホを取り出す。いよいよ警察に連絡にしようと思った。その時だった。
「どうして、俺をまっさきに呼んでくれたの? タクト」
「え……?」
思わずスマホを取り落としそうになった。振り返ると、コウキは眉間に皺を寄せて、自分を見ていた。
「……俺とはしばらく話をしたくないんじゃなかった?」
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