2人と一匹

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2人と一匹

私の彼氏の智くんは年下だ。 自分の好きなものは可愛がりたくて仕方ない。 うちにいる猫の(くら)は8才の貫禄溢れる“熟女”だ 。 私、恭子と蔵はとても仲がいい。 気も合うし、種族が同じなら、“いつメン”となれるはず。 性格は真反対。 私は長い物には巻かれる甘えん坊タイプだけど、 蔵はまさにねこ、気高く気まぐれな、姉御肌タイプだ 智くんは、そんな気まぐれでアンニュイな蔵がたまらないらしく、 大好きで仕方ないようだ。 でもその圧が、蔵にははまらないらしい。 餌を買って来てくれるのも、 トリミングサロンに連れて行ってくれるのも、 最近では圧倒的に智くんなのに、 全くなつく気配がない。 餌をもらうときは、 『仕方ないから少しさわってもいいわよ』って感じで、 目を瞑って大人しくしててくれる。 智くんは目をキラキラさせてナデナデする。 「智くんはワシャワシャしすぎるんだよ」 と私に、言われてから、 智くんは気持ちを85%抑えて蔵を可愛がる。  トリミングサロンでは、 羨ましそうにトリマーさんを見てる智くんに、 さすがの私もひいてしまう。 智くんが来ると蔵が身構える。  でも—。 でもね。 蔵は智くんのかわいがり、 まんざらでもないんじゃない?どいうのを、 私は知っている。 智くんは年上の私も可愛がる。 「ただいまぁ」なぜかそういってうちに上がり込む智くん。 うがい手洗いして、バッグをおくと、 「恭子おいでぇ」と言ってバックハグでテレビを見る。 「夕飯一緒につくろ?」といいながら、 ほとんどの工程を智くんがやっている。 私は、炊飯器のスイッチを押すだけで、 「ありがとうぉ」と髪の毛をワシャワシして誉めてくれる。 お風呂で頭も体も洗ってくれて、 湯上がりはタオルでしゃかしゃかと髪をふきあげて、 包み込むようにしてドライヤーをかけてくれる。 「さらさらだねぇ」と後ろから髪の毛に顔を埋めて、 匂いもかいでいる。 「変態みたい」と言うと、 「うーんいい匂い」とさらっとスルーする。 「恭子?さわってもいい?」 人差し指を、私のほっぺに限りなく近づけて聞いてくる。 ダメって言ってもごり押しでさわるじゃん、 と心の中で思う。  「いいよ」と言うと、もうやりたい放題ほっぺをつついたり、 引っ張ったり、ねこにするみたいに可愛がる。 智くんに好き放題されるのは嫌じゃない。 むしろ心地いい時間。 そんな様子を蔵はちらちらみている。 そしてそわそわしているように見える。 「蔵にはこんなことしたら嫌われちゃうよなぁ」 ふと呟く智くんに「え?」となる。 「それってさ、蔵にできないから、私は蔵の代わりってこと?」 私おかしいよね? ねこに嫉妬する? でもモヤモヤする。 心なしか蔵も勝ち誇ったように見えたりして、 「そんなわけないじゃん。恭子は恭子、蔵は蔵」 智くんは蔵をみながら私に言う。 そして、そっと私の唇に智くんの唇を重ねる。 「こういう気持ちはねこでも人でも、恭子にしかわいてこない」 そう言うともう一度、今度は深く、私を溶かす。 「にゃぁ~ん」蔵は『やってらんないわよ』 って感じで奥の部屋に消えていく。  「智くん、大好き」キスの途中で思いを口にする。 「俺のほうが好き」智くんの甘い声に、 やっぱり私は智くんに全部をあずける。 日曜日  ベランダのリラックスチェアに座っていると、 蔵も私のお腹に座ってくる。 肉球でとんとん叩いて『なでろ』と催促する。 「もう、そういうの智くんにしてもらえばいいじゃん」 と言いつつ、少しなでてやる。 ゴロゴロいいながら目を細める蔵。 「みゃぁ~」短い鳴き声『あんた飼い主でしょ?』といいたげだ。  「もうさぁ、私が智くんに可愛がられてるとき、 何気にうらやまし気に見てるじゃん」 少し体を起こして蔵をみる。 「もっと智くんにゆだねたらいんじゃない?素直になりなよ」 と抱き上げる。 「ふにゃぁ」とめんどくさそうにないて、 私にされるがままになる。 「こんなとこ智くんみたら、やきもち妬かれそう」 一匹と一人で見つめ合う。 もうすぐ、智くんがやってくる。           終わり
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