0人が本棚に入れています
本棚に追加
2人と一匹
私の彼氏の智くんは年下だ。
自分の好きなものは可愛がりたくて仕方ない。
うちにいる猫の蔵は8才の貫禄溢れる“熟女”だ 。
私、恭子と蔵はとても仲がいい。
気も合うし、種族が同じなら、“いつメン”となれるはず。
性格は真反対。
私は長い物には巻かれる甘えん坊タイプだけど、
蔵はまさにねこ、気高く気まぐれな、姉御肌タイプだ
智くんは、そんな気まぐれでアンニュイな蔵がたまらないらしく、
大好きで仕方ないようだ。
でもその圧が、蔵にははまらないらしい。
餌を買って来てくれるのも、
トリミングサロンに連れて行ってくれるのも、
最近では圧倒的に智くんなのに、
全くなつく気配がない。
餌をもらうときは、
『仕方ないから少しさわってもいいわよ』って感じで、
目を瞑って大人しくしててくれる。
智くんは目をキラキラさせてナデナデする。
「智くんはワシャワシャしすぎるんだよ」
と私に、言われてから、
智くんは気持ちを85%抑えて蔵を可愛がる。
トリミングサロンでは、
羨ましそうにトリマーさんを見てる智くんに、
さすがの私もひいてしまう。
智くんが来ると蔵が身構える。
でも—。
でもね。
蔵は智くんのかわいがり、
まんざらでもないんじゃない?どいうのを、
私は知っている。
智くんは年上の私も可愛がる。
「ただいまぁ」なぜかそういってうちに上がり込む智くん。
うがい手洗いして、バッグをおくと、
「恭子おいでぇ」と言ってバックハグでテレビを見る。
「夕飯一緒につくろ?」といいながら、
ほとんどの工程を智くんがやっている。
私は、炊飯器のスイッチを押すだけで、
「ありがとうぉ」と髪の毛をワシャワシして誉めてくれる。
お風呂で頭も体も洗ってくれて、
湯上がりはタオルでしゃかしゃかと髪をふきあげて、
包み込むようにしてドライヤーをかけてくれる。
「さらさらだねぇ」と後ろから髪の毛に顔を埋めて、
匂いもかいでいる。
「変態みたい」と言うと、
「うーんいい匂い」とさらっとスルーする。
「恭子?さわってもいい?」
人差し指を、私のほっぺに限りなく近づけて聞いてくる。
ダメって言ってもごり押しでさわるじゃん、
と心の中で思う。
「いいよ」と言うと、もうやりたい放題ほっぺをつついたり、
引っ張ったり、ねこにするみたいに可愛がる。
智くんに好き放題されるのは嫌じゃない。
むしろ心地いい時間。
そんな様子を蔵はちらちらみている。
そしてそわそわしているように見える。
「蔵にはこんなことしたら嫌われちゃうよなぁ」
ふと呟く智くんに「え?」となる。
「それってさ、蔵にできないから、私は蔵の代わりってこと?」
私おかしいよね?
ねこに嫉妬する?
でもモヤモヤする。
心なしか蔵も勝ち誇ったように見えたりして、
「そんなわけないじゃん。恭子は恭子、蔵は蔵」
智くんは蔵をみながら私に言う。
そして、そっと私の唇に智くんの唇を重ねる。
「こういう気持ちはねこでも人でも、恭子にしかわいてこない」
そう言うともう一度、今度は深く、私を溶かす。
「にゃぁ~ん」蔵は『やってらんないわよ』
って感じで奥の部屋に消えていく。
「智くん、大好き」キスの途中で思いを口にする。
「俺のほうが好き」智くんの甘い声に、
やっぱり私は智くんに全部をあずける。
日曜日
ベランダのリラックスチェアに座っていると、
蔵も私のお腹に座ってくる。
肉球でとんとん叩いて『なでろ』と催促する。
「もう、そういうの智くんにしてもらえばいいじゃん」
と言いつつ、少しなでてやる。
ゴロゴロいいながら目を細める蔵。
「みゃぁ~」短い鳴き声『あんた飼い主でしょ?』といいたげだ。
「もうさぁ、私が智くんに可愛がられてるとき、
何気にうらやまし気に見てるじゃん」
少し体を起こして蔵をみる。
「もっと智くんにゆだねたらいんじゃない?素直になりなよ」
と抱き上げる。
「ふにゃぁ」とめんどくさそうにないて、
私にされるがままになる。
「こんなとこ智くんみたら、やきもち妬かれそう」
一匹と一人で見つめ合う。
もうすぐ、智くんがやってくる。
終わり
最初のコメントを投稿しよう!