めぐる

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「5年生の時に老朽化した校舎の改築があったから、実はこの風景に馴染みがないんだよね。プレハブ校舎で小学校生活を終えたよ。辛うじて体育館だけは当時のままだ」 フェンスの角を曲がると、これまでプールと体育館の陰に隠れていた広い校庭が現れた。 その奥には横に長い3階建ての校舎が建っている。当然ながらどの教室も消灯していた。 「その鉄棒の側にある桜の木、休み時間や放課後によく登って遊んでたな。ちょうど太い幹が二又に分かれるところが、小学校でも手の届く高さだから登りやすくて」 「どの辺りの高さまで登りました?」 「一番上のところ」 汐見が指を差した先は、ほぼ天辺と言っても過言ではない、高さが3メートルほどの場所だった。幹は標準的な成人男性の腕くらいの細さで、汐見少年の度胸と無鉄砲さが窺える。 「その、すごい場所まで登っていたのですね」 「先生や上級生に『危ないから降りろ』って叱られたこともあった。当時は余計なお世話だって思ったけど、今ならそう言われた理由がよく分かるよ。これは落ちたら骨折は避けられないな」 僕も大人になった、と汐見は感慨深そうに数度頷いた。
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