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当の汐見は、平然とした様子で腕時計を見た。
「次のルーツ先は高校だけど、そろそろお昼時だね。桜井さんはお腹空いてる?」
「そうですね、少しだけ」
「なら軽食がありそうなお店を探そっか、どこか良さげな所はあるかな」
汐見は立ち止まると、ポケットから取り出したスマートフォンを左手だけでテキパキと操作する。
すぐに行動を起こせるのが出来た人間の証だと、彩里は常日頃思っていた。
現に私は、こういった時にモタモタして乗り遅れてしまう。自分も同じように調べるべきか迷って躊躇って、ようやくスマートフォンを出す頃には相手は検索し終えているのだ。
「うーん、この辺は軽食系のお店がなさそうだね。一度駅前まで戻るか、いっそ高校の最寄り駅まで出てしまうのも有りかもしれない。取りあえず行ってみようか?」
彩里は数度小さく頷いた。後悔と自己否定の念が喉を絞めつけているようだった。
もっと気の利く人になりたかった。鈍くて配慮に欠けていると思われただろうか。間違いなく良い印象はしていないだろう。
誰かと交わって生きるのに不慣れで、そんな自分が嫌なくせして変わることが出来なくて、ますます自分を嫌いになる。
自分を変えるためにどうすべきか、まだ手探りだった。
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