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汐見の出身高校の最寄りだという駅前は、デパートやファッションビルが建ち並び、老若男女でごった返す正真正銘の都会だった。
ビルの1階に入っている全国チェーンのカフェで軽く腹ごしらえをして、ルーツ巡りを再開させる。
駅から東方面へと進むと、間もなく高層の建物が密集するオフィス街が現れた。
こんな都会の中で本当に高校があるのだろうか。
疑問を抱きつつも、途中で細い道へと曲がると突然緑に囲まれた校舎が現れた。
校門に掲げられた金属札には、金文字で校名が書かれている。彩里は目を丸くした。
「ここ、進学校じゃないですか」
「そうなのかな」
汐見は変わらぬトーンで答えた。得意気な様子はまるでない。
名門校として、しばしば巷で名前の挙がる高校だ。本人にとっては慣れ親しんだ卒業校だから何の感動も覚えないだろうが、彩里からすれば恐れ多いほどだった。
「高校時代はどうでした?」
「ごく穏やかな高校生活だったかな。真面目な子が多かったから、枠をはみ出さないというか」
「はっちゃけない感じですか」
「うん。普通に授業を受けて休み時間は友達と話をして、部活のある日は放課後練習する、当たり障りのない毎日だった。学校をサボったり校則違反をする生徒は誰もいなかったから平和だったよ」
『普通に授業を』と評することが出来るのは、汐見さんの能力が並外れている証左だろう。誰もが授業に付いていける訳ではないし、そもそも凡人には門戸が開かれていない。
2人はこれまでの小中学校と同じように、敷地の外側を歩き始める。
「校庭は割と狭いんですね」
「街中の立地だからかな、シュートをふかすとすぐボールが外に飛んでいっちゃう位だった」
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