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「印象に残っている思い出はありますか?」
「正直なところ、そんなには無いかな」
「えっ?」
予想外の返答に戸惑ってしまう。
これまでのように、てっきり『何々が楽しかった』と学生時代を語ってくれるものと思い込んでいた。まさか無いと言われるとは。
彩里の狼狽を察したのか、汐見は訳を説明した。
「受験熱の高い指導方針だから、学校にいる時間はとにかく勉強漬けだった。みんな昼休みにまで自習していたりとか。もちろん文化祭や修学旅行、クラスマッチの打ち上げとかは楽しかったけど、中学の頃みたいに鮮やかで濃い思い出ではない」
「それだと、部活もそこまで楽しくはなかった……?」
「サッカー部に入っていたけど、中学の時よりは印象が薄いかな。放課後の練習は多くて週3だったから、チームワークは悪くないけど特別良い訳でもなかった。当然実力もちゃんと練習量に見合っていて、如何せん体力が付いてないから大体試合の後半は皆バテてたよ。他校からはガリ勉モヤシ軍団って陰で呼ばれてた」
確かに芝生の校庭にもテニスコートにも、高校生の姿は全くない。
試験期間中だからかと思ったが、汐見いわく「今の時期はもう期末試験が終わってるかな」ということだった。
ガランとしたこの休日の景色は、輝かしい進学実績を裏打ちしていた。勉学重視の代償として部活動は盛んでないようだ。
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