めぐる

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高校巡りをつつがなく終え、彩里たちは駅まで戻ってきた。 1時間ほど前に昼食をとったファッションビルの隣に、入っているテナントの壁面看板が掲げられた商業施設が建っていた。 何の気なしに、正方形のカラフルな看板を左からひとつずつ目で辿る。アパレルショップのロゴ、ファミレスの店名、回転寿司屋の渋い字体、その隣に本のマークの目印が掲げられている。 一度目に入ってしまえば、どうしても意識がそちらへと吸い寄せられてしまう。 ここ何か月かずっと本屋に行けていなかった。近所に本屋がないのと生来の出不精とが重なって、家にある本を何度も読み返すしかなかった。 でも、そろそろ新しいものを読みたい。素朴で巧緻、めくるめく御話の世界に浸りたいのだ。 彩里は読書欲を抑えきれず、隣を歩く汐見に尋ねた。 「あの、ちょっとだけ本屋さんに寄ってもいいですか」 「もちろん。欲しい本があるの?」 「近現代の日本文学作品が欲しいと思ってまして。図書館で借りようか迷ったのですが、貸出期限までに読めるか自信がないのでいっそ買おうかなと」 「ちなみに作家や作品に目星はついてる?」
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