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汐見に問われて、彩里は候補の作家を指折り挙げていく。
「夏目漱石とか、志賀直哉とか」
「持ってる」
「あとは、谷崎潤一郎の細雪もどうしようか迷ってます」
「確か持ってたと思う。貸そうか?」
「いっ、いいんですか!?」
思いがけぬ申し出に、彩里は目を輝かせる。
人からの厚意を受け取る際はつい遠慮しがちだが、大好きな読書が絡むと話は別だった。
「あの、私読むペースに波があって、返すのが遅くなる可能性もありますが」
「図書館と違って貸出期限はないから、好きな時に読んで、いつ返してくれても良いよ」
渡りに船の展開で、本の受け渡しのため急遽汐見の自宅へ寄っていくことになった。
汐見家の最寄り駅は、やはり立西大学前駅だった。
狂犬が中華料理屋に行くために待ち合わせ場所として指定したのもここだった。きっと自宅の近所なのだろうという予想は当たりだった。
駅の北口を出ると、商業ビルや大型スーパーがバスロータリーを囲むように建っている。
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