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駅前の通りをまっすぐ歩くと3分ほどで、街並みは商業地からマンション街へとすっかり変わった。心なしか、どの建物もハイグレードな印象がする。
「着いたよ、ここが僕の家」
「……ここですか?」
彩里はポカンと口を開けながらマンションを見上げた。3階建ての低層ではあるが、薄茶色の滑らかな壁面が気品を漂わせている。
1つ目の自動ドアを抜けた先で汐見はオートロックを解除する。彩里の六つ葉荘には存在しない立派な防犯装置だった。
エントランスホールは大理石を思わせる白を基調としており、マンションというよりもはや高級ホテルだ。少しの物音を立てるのも躊躇ってしまう。
エレベーターを待つ間、汐見はおもむろに口を開いた。
「今日は僕だから大丈夫だけど、『変なことはしない』って口だけなら何とでも言える。安易に男の家に上がったら危ないから気を付けて」
「……すみません、注意します」
「いや、僕こそ自分から誘っておいたくせに、説教臭くてごめん」
彩里は首を横に振った。
汐見さんの考えは尤もだし、異性慣れしていない私の身を案じてくれているのだろう。
ただ、私が男性の家に誘われる機会が今後まずないであろうことは、言い訳めいた響きを含みそうだったから言うのをやめた。
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