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汐見の部屋は3階の突き当たりにあった。
玄関錠に数字の羅列を入れて解錠し、彩里をエスコートするようにドアを開け放つ。
「どうぞ」
「お邪魔します」
彩里は靴を脱いで玄関に上がった。フローリングの廊下の両側には、向かい合うようにドアが1つずつあった。
廊下を突き当たると10畳ほどのリビングが現れる。更にその隣に、襖で隔たれたもう一部屋があった。
一人暮らしにしてはあまりに広すぎる。
すると、彩里の思考を読んだように汐見が説明を加えた。
「この場所の土地、元々僕の母親が祖父母から相続して持っていたんだ。不動産業者にここの所有権を売った時、母が土地売却に加えて、これから建つマンションの一室を譲渡してもらう契約をしたって経緯らしい」
「凄いですね。それだと、このお部屋は元々ご両親の別荘として所有していたのですか」
「ううん、将来僕か兄が所帯を持ったときに住めるようにって。実際兄はアメリカで暮らして、僕は部屋を持て余す独り身なんだけどね」
汐見は肩を竦めて笑った。
「さっき前を通り過ぎてきたお部屋も使っていないんですか?」
「向かって右にあった部屋は物置状態で、左はトレーニング器具の置き場だよ」
「普段トレーニングをしているんですね」
「いや、僕はさほど使っていないかな」
僕は使わない、ということは狂犬の方が主に使用しているのだろう。
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