79人が本棚に入れています
本棚に追加
何せ狂犬は、運動公園で吐くまで走り続けるトレーニング狂なのだ。
「座ってて、今日ずっと歩かせちゃったし。何飲みたい?」
「では、お水で」
「緑茶、紅茶、ほうじ茶、コーヒー。温かいのと冷たいのではどれが好き?」
「……温かいほうじ茶を、お願いします」
初対面の時もそうだったけど、汐見さんは本当にこういう気遣いに長けている。
彩里はリビングの中央に置かれた白いローテーブルを前に正座した。
行儀が悪いと思われないよう、こっそり目だけを動かして室内を観察する。
全体的に物が少なく、シックな印象の部屋だ。有り余る部屋数にもかかわらず、典型的な一人暮らしのワンルームのようにベッドや衣装ケースもこの空間に置かれている。
東側の壁際、3段の黒いローチェストの上に気になるものを見付けた。
「CDステレオをお持ちなんですね」
「今どき珍しい?」
「懐かしいです。小中学生の時は学校で合唱の時間にCDを掛けたりしましたけど、もう10年以上触れてないです」
汐見は両手に持っていた2つのマグカップをテーブルに置いた。
いずれのマグからも薄い湯気がたっている。
最初のコメントを投稿しよう!