めぐる

26/35

74人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ
「高2の夏、美術の授業で“音楽を聞きながら心に浮かんだ日本の風景を描く”って課題が出た時に、先生がCDで色々な日本の歌を流してくれた。その中に『夏は来ぬ』もあったんだ」 「聴覚から想像を掻き立てて風景画を描くんですか。珍しい授業ですね」 「この曲を聴きながら僕が心の中に思い描いた風景は、青空と田んぼだった。朝の光が降り注ぐ下、柔らかい苗がそよそよと風に揺られる景色だ。その時に、一生に一度でいいから、田んぼの側で美味しい緑茶を飲みながら長閑に暮らしたいって思った。そして田んぼと言えばという発想から、米どころの城北地区に無性に住んでみたくなった。だから僕は城北大学を目指そうと決めた。学問に励みながら、キャンパスを闊歩する自分を夢想して」 汐見の出身大学がここで初めて明かされた。 城北大学。国内屈指の難関大学で、そこに通うため浪人を選択する人も多いという。 大手企業に勤めていて、何気ない会話を交わしていても理知的で優れた気立てが自然と滲み出る。汐見が城北大出身というのも納得だった。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加