めぐる

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ルーツ巡りの道中で聞いてきた学生時代の話から、何かしらに秀でた人物であろうとは推測していたが、いざ出身大学の名を聞くとますます畏敬の念が湧いてくる。 初対面時から今に至るまで無礼がなかっただろうかと冷や汗をかきながら、彩里は汐見の話に耳を傾けた。 「受験勉強の焦りや不安で追い込まれていた時も、『夏は来ぬ』の泣きたくなるほど優しい旋律に支えてもらった。話は少し飛ぶけど、城北大学に入学して半年くらい経った秋、友達から誘われて、大学附属美術館で催された『万葉の景色』という展覧会に学生バイトとして携わった」 「まんよう……?」 「万葉集。奈良時代に作られた日本最古の歌集の」 聞いたことのある名前だ。中学か高校で万葉集の和歌を習った気がするけれど、もしかしたら古今和歌集とごっちゃになっているかもしれない。 「その展覧会で、和歌中に現れる場面をテーマとした絵画や、万葉集の舞台である奈良の旧跡を切り取った写真作品に触れたのがきっかけで、僕は日本文学や東洋美術史に興味を持つようになった。それで、2年生になると日本文化に関わる教養科目や学部専門科目を多く選ぶようになった」 「近現代の文学作品を多くお持ちなのも、それが理由ですか?」 「谷崎潤一郎に関する研究の講義を取っていて、教科書として細雪の文庫本が指定された。純粋に読んでいて面白かったから、他の著名な作家の作品もその頃に買い集めた。懐かしいな」 たまたま話が細雪に及び、2人で汐見の部屋に来た目的を思い出す。
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