めぐる

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「そう見えた?」 彩里は小さく頷いた。 汐見は彩里から顔を逸らして再び本棚を見るが、本探しのことを忘れたように暫く動かなかった。 「桜井さん、鋭いこと言うね」 「え……そうですか?」 「確かにマイナスな感情は一切なかった。無我夢中で走り続けてきた中で自分の限界が分かって、いっそ清々しかった気がする」 それに、と汐見が付け加えた。 「大学時代が学校生活で一番楽しかったから、かもしれない」 最後に志賀直哉の小僧の神様・城の崎にての作品集を取ると、床に平積みしていた本たちをまとめて抱え上げ、マグカップの置いてあるテーブルへと移した。 「初めての独り暮らしもそうだし、学校生活全般も楽しかった。体育会の部活じゃなくてサッカーサークルに入ってたんだけど、勝ち負けや巧拙に頓着せずにとにかく全員が楽しもうって方針は、人生で中々の衝撃だったよ」
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