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「中学や高校の部活よりも楽しかったんですか?」
「ゲームキャプテンや部長としての責任がとにかく重かったから。『強豪校に一矢報いるための戦略を準備しないと』とか『誰と誰が喧嘩中だからうまく和解させなきゃ』とか、当時のあれこれを回想すると未だに胃が痛むよ」
汐見は苦笑しながら胃を抑える仕草をしてみせた。
「それだと、中学や高校時代とは違って、苦労する出来事はさほど無かったですか」
「大変でキツかったこともあったけど逃げ出したくはならなかった。店長に泣きつかれて断り切れなかったコンビニバイト10連勤も、徹夜で取り組んだ卒論も、今思い出しても眩いほどの思い出だ。このCDは」
汐見が本棚の上に平積みになったCDケースの中から1枚を抜き出した。Jポップ厳選ジャズコレクションと書かれている。
「僕がコンビニでバイトしていた時期によく流れていた音楽なんだ。大学卒業でバイトを辞める時に店長がプレゼントしてくれたものだから、なおさら思い出深い。人間は嗅覚が最も記憶に繋がっているって言われるけど、僕からしたら音楽の方がより鮮明に記憶を呼び起こしてくれる。僕はこのCDを聴くといつも、あの時のコンビニのレジに心が引き戻される。懐かしく、温かい記憶だ」
「汐見さんは、大学生の頃に戻りたいですか?」
「そうだな……間違いなく言えるのは、自由でいられた大学時代が一番幸せだった」
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