たどる

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汐見は駅の軒下から少し外れた、日の当たる場所に立っていた。 運動公園で会った時と同じ黒ジャージを着ていた。以前は上着のファスナーを上まで閉めて口元を隠していたが、今日は鎖骨の辺りまで開けている。 狂犬、と呼び掛けようとして慌てて口を閉じる。 危ない、これは私の心の中だけの呼び方だ。 「し、汐見さん!」 「来たか」 鋭い眼差しを向けられるだけで、何故か怒られているような感覚が襲ってくる。前回の「黙ってろや!」がトラウマになっているのかもしれない。 いったい今日は何の用事なのか、彩里は汐見からの説明を待つ。 「お前、先週ここで俺と待ち合わせて『ルーツ巡り』したんだってな」 汐見は彩里の返答を待たずに、右の親指で駅の建物をクイッと指した。 「同じ場所、案内しろ」 「え?」 「だから、同じ場所に俺を連れてけっつってんだ。何度も言わせんな」 彩里は身を竦ませたまま、自分が今まさに窮地に陥っていることを理解した。 つまり私は、この人と1日行動しなければならないの? 「おい、聞いてんのか?」 「分かりました!けど」 彩里はショルダーバッグの紐を両手で握りしめながら、恐る恐る希望を口にした。
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