たどる

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老夫婦が校門を通って学校の敷地内に入っていくと、入れ替わるように若い男性が出てきた。 汐見は腕組みしながら、その光景を睨みつけるように眺めていた。 「何で休みなのに人が出入りしてんだ。参観日か?」 「区長選か区議選をやってるみたいですね。そういえば道中に選挙ポスターがありましたし、体育館から出てくる人にマスコミらしき人が話し掛けてます。きっと出口調査じゃないでしょうか」 彩里は体育館の中で働く同業者に心の底から同情した。 役所の職員、とりわけ若手は投票所の運営に従事させられる。良い臨時収入にはなるが、開票作業の担当にもなっている場合は、朝早くの投票所設営から深夜の開票完了まで拘束時間が長いのが難点だ。 校門が開放されていることに乗じて、彩里たちは校庭に入る。 敷地の端の方に植えられている、汐見が幼少期のエピソードを披露した桜の木に近付いた。 「汐見少年はこの木のてっぺんまで登って、危ないって先生に怒られたことがあるそうですよ」 「へぇ」 気のない返事だったから、てっきり興味がないのかと思った。
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