紫苑 chapter.0

3/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
おそらく花びらだろう。 鼻先をくすぐった。 これだけ近付けても、 色も形も見えないけれど。 君と同じ名前の花ならば きっと可愛らしい花なんだろう。 僕の認識できる唯一のこの色が 黒だと教えてくれたのも君だ。 カララララッ…と 音がして彼女が戻ってくる。 「せっかくの週末に毎週来てもらってなんだか申し訳ないな。」 「あたしが来たくて来てるから、 律くんは気にしないでいいの。」 「ありがとう。」 君と出会ってから本当に楽しいんだ。 そんな言葉を含ませて礼を述べると 彼女はふふっと笑った。 「でも、無理はしないでね。 僕と違って君には学校も友だちもあるんだから。」 「うん、大丈夫。」 正直、あんまり馴染めてないんだ、 と困ったように笑う声。 「通院で休むことも多いし、あんまり激しい運動もできないしさ。」 「そっか…」 「正直、週末に律くんと話しに来るのが一番の楽しみなんだよね!」 「僕も早く週末にならないかって、 いつも思ってるよ」 お世辞とかじゃないからね、 と付け加えると えへへっと照れたような笑い声が返ってきた。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!