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その一言が衝撃と共に心へ突き刺さる。消えてしまうような声、何かに呆れているような目線、そして女子らしい一言。さっきと雰囲気が全然違う。
わかってはいるのに、俺は俺のままだった。その女の子らしい一言に、美咲らしくない一言にイラっとしてしまった。
「は? 当たり前じゃん。そんなの言ってくれなきゃわかんないよ」
「そうじゃなくて。言ってもわかんないよ。てか、私が何をしてもそれは私の勝手でしょ?」
「言ってもないのに勝手に決めつけないで。なんでもかんでも勝手に自分で決めるの悪い癖だよね。直せば?」
「なんなの? わざわざこんなとこまで連れてきて説教? ほんと意味わかんない」
喧嘩なんてしたこと無かったのに、尖った言葉をお互いに突き刺してしまう。こんなことしたって意味なんかないってわかっているけどお互いにイライラしてしまっていて止めることができない。
「意味わかんないのはそっちでしょ。勝手に自殺してさ。俺美咲の彼氏なんだけど」
「じゃあ別れる? そんなこと言ってくる彼氏なんて要らない。丁度告白されてたからその人と付き合ってもいいかもって思ってたし」
「は? それ知らないけど。隠し事? どうして俺に何も言ってくれないの?」
両手に料理を乗せている店員さんが、困ったように俺らの様子を伺っている。俺らの都合で困らせてしまって申し訳ない。
「だから言う必要無いじゃんって。もういいよ。昨日は俺が引き止めとけばとか言って後悔してたのにね。あれ嘘だったの?」
そんなこと思っていない。本心で思っていたし、今でも美咲には死んでほしくない。けれど、気持ちは収まらないまま。俺は美咲に悪い癖を直せと言っているのに、俺が直そうとしていない。これじゃあダメ人間だな。
「そうだよ」
「……そう」
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、寂しそうな顔をしているように見えたのは、俺が美咲に可哀想な人というフィルターを掛けてしまっているからなのか。それとも美咲は、本当に寂しかったのか、わからない。
店員さんが目の前に2皿置く。気まずそうにごゆっくりと言って、そそくさと裏へ戻って行ってしまった。
この空気で、食事ができるわけがない。そう思ったのに、美咲はトレイからスプーンを出そうとしている。美咲は訳が分からない。いつもそうだけど、さっきまであんなに怒っていたのに。美咲は俺と違って空気を読ませている側の人間で、今日はそれがなんだか気持ち悪く、無性にイライラした。
「嘘つき」
その音が届くと共に、目の前は赤く染まった。
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