3月18日?

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 気付けば俺は暗い色のない世界に包まれていた。周りには何もなく、下を見ても自分の体さえ見えない。前に進もうとしても、どっちが前かすらわからない。  海苔や紙より暗い。学校で使った絵の具より、書道で使った墨汁より、誰もいない夜道より暗い。その暗さは俺を不安で侵食していこうとする。抵抗しようとしても、心拍数はどんどん上昇していく。やめろ、触るな。俺を殺そうとするな。俺はまだ生きたいんだ。 「どうして?」  どこから聞こえたのかはわからない。幻聴かもしれない。それでも、美咲の声が聞こえた。優しい透き通るような声なのに、どこか冷たくて儚い。  闇に包まれそうだった心に光が入った感覚。美咲が俺に答えを求めてくれている、返さないと、と思った。 「俺は誰かの光になりたいんだ。俺の作った曲を、誰かに届けたいんだ。自分の作った歌で誰かを救うって、凄くかっこいいし、素敵だと思うんだ。だから……」 「だから?」  その先の言葉は何かに引っかかって出てこない。頭では答えが出ているのに、ハッキリ言えない自分への苛立ちと、もどかしさが脳を支配する。苦しくて息ができない。頭が殴られるかのような痛さを訴えているし、血の独特な匂いを思い出して吐きそうになる。次第に自分も周りもわからなくなっていく。  俺はここで何をやっているんだ、どうして歌を作っているんだ、美咲より、俺なんかが死ぬべきじゃないのか、ああ、それとも俺は今から死ぬのか?いや、そんなの嫌だ。  何も考えられなくなったころ、微かに聞き覚えのある音がした。
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