3月17日

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 いつも家に帰る途中の辺で、あいつらと待ち合わせをしている。電車に乗って俺らが住んでるとこより煌びやかで騒がしい街に降りた。高い建物が立ち並んでいて、コンビニで見ることのできた星は空に埋まっていて見えない。  カバンの開け口を押えながら歩く。この前財布がなくなっていた時からここの街の治安の悪さには引いている。うるさい大学生がそこらで酒を飲んでいたり、居酒屋の看板の奥には口から吐き出された汚物が放置されていたり、ピアスがバチバチに開いていたり、髪色が派手だったり、とにかく怖い。まあ、最後の2つは俺の偏見だし、実際俺も髪色は派手だけど。  だけど、今日はそんな人たちが全然いない。というか、そもそも人通りがおかしいくらい少ない。平日の夜だからなのか、何かイベントがある日なのか。  スマホを開いて時間を見ると、8時前だった。約束は8時30分だから早く着きそう。暇つぶしにゲームセンターでも行こうかな。そんなことを考えていたら約束をしていた石橋から電話がかかってきた。 「もしもし? 俺もう着いたけどどっかいる?」 『黒瀬? お前今どこ? 大丈夫か?』  俺の話を聞いていない石橋。声だけでも焦っているのが伝わってくる。 「俺今地下街にいる。デカい100均の近くの階段付近」 『お前交差点の赤い家電屋わかるよな? あそこに美咲ちゃんがいるんだよ』  今日一緒に飯を食うメンバーは男だらけで、美咲は入っていない。美咲も友達とこの辺で遊ぶとするなら居てもおかしくない。石橋が焦ってる理由が上手く掴めなかった。 「美咲? なんで焦ってんの?」 『違うんだよ、あーとりあえず今すぐ来い!』  耳に当てていたスマホから怒鳴り声が聞こえ、うるさくて耳から離す。わかったと言って家電屋の近くの階段を目指す。スマホからは石橋の声も聞こえるが、その周りの声がうるさいのも伝わってきた。  もしかして、石橋はカツアゲに遭っているのか? いや、それに美咲は関係が無い。もしかして美咲が男と居るのを目撃して焦っているとか? だとしたら多分石橋の勘違いで、それは美咲の先輩かもしれない。美咲が浮気するなんて絶対にあり得ない。地下街にも人は少なく、今日はスリを気にせず歩ける。  だけど、なんとなく進みにくい。人が居ないはずなのに腕に誰かが当たっている感覚がして体が押しのけられている感覚がする。  何怖がってるんだよ、俺。 『早くしろよ!!』  いつもムードメーカーの石橋がこんなに声を荒げているのはびっくりしてしまった。けど、どこか鼻声でもあった。美咲に何か危険が迫っているのかもしれない、早く行かなきゃいけない。だけど、いろいろぐるぐる考えてしまって足が重い。いや、いろいろ考えるというよりは何となく俺の考えている「無理」な世界が当たっている気がして怖い。  おかしいくらいに人が少ない表通りと地下街。今までに無いくらい焦っている石橋。電話越しに伝わってくるその場の沢山の人。大丈夫かと俺を心配している言葉。美咲が居るらしい交差点の大きな家電屋。  そのキーワードと重なるように、最近の美咲を思い出す。目の前の階段を上がれば家電屋の目の前。急いで2段飛ばしで駆け上がる。聞こえてはいるけど、俺も焦ってるらしい。地上から聞こえる叫び声やヒソヒソ話す声は、なんて言っているのか理解が出来ない。
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