3月18日?

1/9
前へ
/13ページ
次へ

3月18日?

 スマホから聞きなれたアラーム音が鳴る。何かに追われている。そんな感覚がして、がばっと体を起こした。寝起きに似合わない速さでドクドク音を立てる心臓。小刻みに震えている手。悪夢を見た後のような目覚めだ。いや、悪夢の方がマシだ。  アラームを止めて、改めて昨日のことを思い出す。石橋たちと飯行く約束をしていて、バイト先から街の方に向かったら石橋から電話が掛かってきて、家電屋の方に行ったら美咲がいて、目の前で飛び降りて、どうやって帰ったかは覚えていないけど、きっと昨日の警察官が連れて帰ってくれたのだろう。そういえば、お礼も何も言えてない。 「零、準備間に合うの?」  ノックしてドアから顔を覗かせる母さん。そうだ、今日は高校の卒業式だった。「すぐ降りるよ」と言ってスマホを開く。石橋に連絡しようとしたけど、昨日のあの光景がフラッシュバックして思わず溜息が漏れた。石橋は大丈夫だろうか。他人を心配する余裕なんて、俺には無いはずなのに。  スマホをスリープさせ、カーテンを開ける。窓から朝陽が差し込んで目をそむけたくなるような光が俺に直撃した。みんなは、美咲が死んだって知ってるのかな。今日の卒業式は、予定通りやるのかな。母さんは美咲のことを知らないけど、昨日警察伝いに知ったのかな。俺は、どこまで耐えれるんだろう。下から、「寝てないよねー?」と声をかけられた。いろいろごちゃごちゃ考えていたら数分経っていたらしく、ベッドから足を降ろした。 「おはよう。今日は1本遅い電車で行くから」  キッチンに立っていつものように弁当を詰めている母さんに一言言うと、母さんは不思議そうな顔で「なんでー?」と聞いてくる。その言葉に耳を疑った。あれほど今日は卒業式だと伝えていたし、母さんも楽しみにしてくれていたのに、忘れているなんてありえない。しかも卒業式は午前で終わって昼はみんなでパーティに行くのに、普通の顔して弁当を作っている。昨日のことに対してもなにも言わないし、本当にいつもの姿と変わらない。 「今日卒業式だから。お弁当は夜食べるね」  優しく自然にそう告げると、母さんの動きは止まった。 「え? 卒業式明日でしょ……?」  母さんが俺の卒業式の日を間違えてるなんてあり得ない。  小さい頃、父さんと離婚した母さんは1人で俺を育ててくれた。毎日仕事で忙しいのに栄養たっぷりの弁当をずっと作ってくれて、中学生の頃俺が喧嘩して歩けないくらいボコボコにされた時も仕事を終わらせて迎えに来てくれたり、母さんは俺のことを愛していてくれる。小学生の時だって参観日に毎回来てくれたのに、卒業式を間違えるなんて、やっぱりおかしい。    なんとなく気まずい空気が流れる。静かなリビングではテレビからアナウンサーの声しか聞こえなかった。  俺はそのニュースに違和感を感じた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加