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図書室を出て教室に戻ろうとすると、さっきより廊下が騒がしくなっていた。時間はいつの間にか俺が登校する時間になっている。聞き取れない音の方が多いこの空間を、俺はあまり好きになれない。後輩が何人か挨拶してくれるときの「おはようございます!」はかろうじて聞こえた。その挨拶に笑顔で答える石橋。俺も明るく返したかったけど、どうも上手く笑顔は作れない。その間に後輩は反対方向へ進んで行く。
「なんかお前今日おかしくね? 風邪気味?」
「おかしくなんかないよ、うるさいな」
馬鹿にされた気分になってついイラっとしてしまう。こっちは昨日から感情の変化で忙しいのに、ヘラヘラ笑っている石橋に馬鹿にされる筋合いはない。覚えてないのだから仕方ないのはわかっているけど、石橋だって昨日あんなに泣いてただろと思ってしまう。
「あ、美咲ちゃん」
「え」
さっきより混み合っている廊下で石橋が指差した方向には、いつもとなんの変わりもない美咲が歩いていた。
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