Ⅰ 未確認生物には暇な探偵を

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Ⅰ 未確認生物には暇な探偵を

 聖暦1580年代末。〝新天地〟(※新大陸)の海に浮かぶエドラーニャ島の植民都市サント・ミゲル……。 「――で、今回の依頼ってのはなんなんっすか?」  俺は応接のテーブルを挟んで座るサント・ミゲル総督ドン・クルロス・デ・オバンデスと、その部下の行政官モルディオ・スカリーノの顔を交互に眺めながら尋ねた。  俺の名はカナール。闇本屋のジジイから買った魔導書『シグザンド写本(巻末付録『サアアマアア典儀』付き)』の力を借りて、怪奇現象専門の探偵(デテクチヴ)をやってるハードボイルドな男だ。  ま、エルドラニアは魔導書の無許可での所持・使用を禁じているので、その禁書を仕事に使ってることはちょっと口に出せねえけどな。  で、今日は何回かそんな仕事を引き受けたことで、なんとなく知遇を得えている総督府に突然呼びつけられた。  俺はエルドラニアの敵国フランクル移民の父親と原住民の母親の間に生まれたハーフで、ここでは肩身の狭え非エルドラニア人の貧民街出身だが、そんな訳でこんなエルドラニア貴族のお偉さまとも昵懇の間柄なのだ。 「そなた、〝ビッグフット〟というバケモノを知っておるか?」  そのエルドラニア貴族然りとした小太りなオヤジは、俺の質問に聞き慣れねえ言葉を口にした。 「ぴっくふっと? ……ああ、豚足(・・)ですかい? (シン)国人がよく食ってる……」 「違う! 〝ビッグフット〟じゃ。まあ、アングラント語なのは当っとるがな。アングラント人入植者がそう呼んだのがもとらしく、〝|大きな足〟という意味じゃ。原住民は〝サスカッチ〟と呼んどるようじゃがの」  勘違いして俺が答えると、クルロス総督はそれを訂正してさらに奇妙なことを言い始める。 「サント・ミゲルの郊外にブロフクリーという開拓民の集落があってな、そこの者達から、その原住民に伝わる怪物が出るんでなんとかしてくれと陳情がきとるんじゃ」 「なんでも毛むくじゃらの大きな猿みたいな格好をした野獣らしいですよ? その巨大な足跡からアングラント人はそう呼ぶようになったんだとか……ま、住民達の見間違いで、ただの猿やクマの可能性もあるんですけどね」  総督の言葉を受け、となりのモルディオも補足説明を入れる。
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