じっくり落とすダッチコーヒー

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 先に切り出してくれた男だが、店の方針らしいセルフサービスは変わらず亜子に飲み物は出てこない。  その、いっそ開き直った接客態度に亜子は呆れながらも感心し、そして疑いも持つ。 「騙しませんよね」 「さぁな」  相変わらず男はやる気がなさそうで、信用を問われているのにどこ吹く風だ。そんな態度に、切羽詰まった亜子は思わず大声を出す。 「真面目にやってください! 私、もう二カ所で騙されているんです。ネットでの依頼がいけないと思って、苦労して事務所へ来たのに……」  段々と声を小さくした亜子は、最後には言葉を失いうなだれてしまう。それに同情したのか、男はゆっくり立ち上がって亜子の肩を叩く。 「別れさせ屋なんて、大抵悪徳業者だ。騙されそうな間抜けがノコノコ自分から現れる商売だからな」 「間抜け……確かにそうですけど、ひどいです。わかりました、ここも悪徳業者なんですね。失礼します」  顔を歪めた亜子だったが、事実の部分が大きいため反論はできない。先ほどの勢いをあっという間に萎ませ、一礼して店を出ようとした。
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