じっくり落とすダッチコーヒー

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じっくり落とすダッチコーヒー

 電車を乗り換えて、最寄り駅からは徒歩で移動する。  特に面白味のない駅と同じように、町は住宅が立ち並ぶだけで大きな娯楽施設もなく住民ではない若者が訪れるような場所ではなさそうだ。  それでも、高城亜子(たかぎあこ)は明白な目的を持ってこの町を訪れた。  親戚や友人の家を訪ねる訳でもなく、住所しか書かれていない紙を頼りに目当ての場所を探す。  けれど、土地勘もない上に同じような町並みが続いているために目的地は中々見つからない。 「あっつい……ここ、喫茶店?」  亜子は疲労した顔を上げた先にあった喫茶店へフラフラと足を進めた。  繊細な細工が施された、真鍮製のドアベルが美しい音色を立てる。三つ連なった鐘は耳に優しい音を立て、その余韻はしばらくの間室内に漂う。  ステンドグラスの窓から差し込む陽を浴びるどこか懐かしい店内はアンティーク調の家具が並び、中央奥には螺旋階段が階上へと伸びている。
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