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「適当にどうぞ。ウチはセルフサービスだ」
「はい?」
思わず聞き直してしまった亜子は悪くないだろう。けれど、店主らしき男はそれっきり煙草をふかしながら新聞を読んで寛いでいる。
「素敵な店なのに……気取った私がバカみたい。飲み物はいいです、道を教えてもらえませんか?」
亜子はこの辺りと思われる住所が書かれた紙を差し出すが、一向に受け取られる気配はない。亜子はそれでも諦めずに腕を前に伸ばして、男の眼前に突きつけた。
「この店、知りませんか」
「ここだ」
「ココア? 客に注文しないでください」
疲れと夢が崩れて少しばかり気が立っている亜子だったが、ほんの数秒後に冷静になって首を傾げる。聞こえてきた返事は、飲み物ではなく望んでいたものであった。
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