じっくり落とすダッチコーヒー

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「あの、もしかしてここって言いましたか? ここは別れさせ屋なんですか?」 「看板に『花に嵐』って書いてあるだろう」  バカにしたような言い方をされて、亜子は思わず店を飛び出す。美しい音色が二度店内に鳴り響く。 「かすれて見えにくいです……それに、どう見てもここは喫茶店にしか見えないです!」  店主の言う通り、雑居ビル一階のレンガ造りの壁には無造作に立掛けられた木製の看板があった。しかし、それは色褪せていて目を凝らしてようやく『花に嵐』と読むことができるものだった。 「一応、ここは喫茶店兼事務所だからな」 「じゃあ、ここは本当に別れさせ屋なんですか?」 「あぁ」  短い返事をした男は、テーブルの上の実験器具のようなものに手を伸ばす。それはどうやらコーヒーを淹れるものらしく、ビーカーから黒い液体がカップに注がれていた。 「それで、依頼か?」
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