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序
私は今、怒っている。
猛烈に怒っている。
「ムゥロ、何やってるんだ! これでは脱走ではないかッ!」
目の前の少女――今年十五歳になったという「ムゥロ」は白い髪をクシャクシャ掻きながら舌を弾いた。
「うるせーな! メメンプー、状況を考えろ。オレはあのままだと死刑だったんだぜ。脱走するに決まってんだろ」
「私は誤認逮捕だったのだ。ちゃんと説明すれば出られたはずなのに……」
ムゥロは私の抗議など微塵も気にしていない様子だ。
あくびをしながら歩きだした。
先ほどまで移送中の護送車に乗っていたので、手錠で繋がったままだ。
私の右腕とムゥロの左腕をつないだ手錠が引っ張られ、つまずきそうになりながらムゥロの背を追う。
「さ、先に行くなッ!」
シャレっ気のない囚人服に、身に覚えのない罪。
グローブPCは取り上げられ、身体は砂埃と泥だらけ。
まったく、十四歳になったばかりだというのに、踏んだり蹴ったりのこの状況は一体なになのだろうか。
鼻歌まじりに歩くムゥロの背中を見ていると、ふつふつと怒りがよみがえってきた。
私はムゥロに振り回されたお返しとして、背後からスネを蹴りたくってやった。
その一発が殴り合いのケンカに発展したのは言うまでもない。
さて、何故こんなことになってしまったのか――。
ことの発端は、つい五時間ほど前にさかのぼる。
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