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「それで、今日はなぜ、雪女に会いたいと思ったんですか?」
一応今日の活動内容らしい本題について聞いてみると、部長は元気よく窓の外を
指さした。
「小桜くん、この街でこんなに雪が降るなんて、過去10年で見てもなかったことだよ。この積雪は、雪女の仕業に違いないと僕は思うんだ!」
「都会に現れる雪女の話なんて聞いたことありませんけど」
「きっと僕らが知らないだけさ!」
「まぁ、たしかにたくさん積もりましたが……」
うさんくさそうに小桜が言うと、部長は、根拠なら大いにあるんだよ! と得意げな顔をした。
「食料を求めて人里に下りてくる熊がいるわけだから、同じように人間を求めて
人里に下りてくる雪女がいたとしても、おかしくはないと思うんだよね!」
「大都会でなにを言っているんですか、あなたは」
「変かなぁ? でもこの仮説、的を射てない?
まったくないとは言いきれないと思うんだよねぇ」
そう言われて、小桜は言い返せなくなった。
なぜならそれは、人間に興味を持った人ならざる存在が、その世界に紛れ込んで
いることは、たしかにあるからだ。
人間の意識の外側で、彼らは人間たちの暮らしぶりを見て楽しんだり、時々ちょっかいを出したりしている。
または人間に変化して、完全に人間界に溶け込んでいる者すらいる。
小桜自身がそうであるように。
「……わかりました。それでは今日の活動内容は、雪女の捜索、ということでいいですか?」
「うん、それでいこう!」
自分で言ってみてから、なんだこの活動内容は、と小桜は思った。
それでも本気で雪女に会えると思っている部長は、意気揚々と外に出る支度を始めている。
「聞いておきたいのですが、部長は雪女に会ってなにをしたいんですか?」
そもそも雪女とは、人間の精気を吸い取ったり凍死させたりする妖怪で、決して
人間に対して友好的ではないだろう。
部長の仮説が当たり、万が一遭遇してしまったらと考えると、そこには危険が伴う。
会うことが今日の活動の目標となっているが、その先の目的についても知っておく必要があると思い訊ねた小桜に、カイロの袋がなかなか開けられずに苦戦していた部長が振り返った。
「握手してサインを貰って、記念に写真を撮るんだよ!!」
この人はどこまでものんびり屋さんだな、と小桜は小さくため息をついた。
それを聞き逃さなかった部長が、慌てた様子でそばに駆け寄ってきて、ようやく開封できたらしいカイロをひとつ、手渡してきた。
小桜は喉元まで出かかった、ため息と風邪に関連はあるのかという話題を押し込めて、渡されたカイロを制服のポケットに入れておいた。
「あれ? 小桜くん、上着は? もしかして長靴持ってないの?」
「上着はないです。長靴も持ってないですね」
「ダメだよ! ほら、僕の上着着て! それとたしか未使用の長靴がロッカーにあったはず……」
「私のことならお構いなく。多少の寒さは平気ですから」
「多少って……今日は相当の寒さだよ、小桜くん」
「このくらいの寒さなら平気です」
「そうはいかないよ! 女の子をそんな軽装備で冬の外に連れ出すなんて僕はできない!」
女の子、という響きに一瞬言葉に詰まった小桜の肩に、部長が上着を被せた。
「ね? ダウンジャケット、あったかいでしょ?」
にっこりと笑う部長を前に、小桜は不覚にも頬が紅潮しそうになって横を向いた。
「……しかし、そうすると部長が軽装備になってしまいます」
「大丈夫だよ! 上着がないだけでカイロがあるし、自分の長靴もあるし、
それになんってったって、僕は部長だからね!」
「それ、関係ないと思います」
窓の外は、朝から降っていた雪が、授業中にもしんしんと降り続け、下校時間にはすっかり見渡すかぎりの銀世界を作りあげていた。
今は降り方も落ち着いたが、空には灰色の厚い雲が広がっている。
さっきの部長の仮説が頭の中をよぎっていった。
(まさか、本当に……?)
底知れず降り続ける雪を、小桜はどこか不気味に感じた。
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