雪の中、あなたの体温

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玄関口までやってくると、一面の雪化粧が眩しくて、小桜は少し俯いた。 目を薄めて徐々に視界を上げていくと、登校時とは打って変わった景色がそこにあり、少々面食らってしまう。 この街に来て初めての冬。小桜の目に白銀の世界は物珍しく映った。 きょろきょろと辺りを見渡してしていると、少し遅れて玄関から出てきた部長が 歓声を上げて、小桜の横を通り抜けていった。 子供のように駆け回る部長が、積もったばかりのさらさらの雪を舞い上げている。 「小桜くん、雪だよ! やっぱり雪女がこの街に来ているんだよ!」 「部長、あまり大きな声を出さないでください、恥ずかしいです」 「ごめんごめん! ついはしゃいじゃったよ」 玄関先に佇んでいる小桜の元へと戻ってきた部長の癖のある毛先には、小雪が 乗っかっていた。雪は今もちらちらと降り続けている。 見上げていると、どこか不安な気持ちになってくる空に、小桜は少しだけ、身を震わせた。 「小桜くん、寒い? 大丈夫かい?」 部長の声にはっとして、自分はなにを不安になっているのだろうと頭を振る。 この部で活動するうちに、部長の心配性がうつったのかもしれない。 「部長から貸していただいたジャケットと長靴がありますから問題ありません。 ですが……」 部長のダウンジャケットは小柄な小桜が着ると、すっぽりとお尻まで隠れるほど 大きかった。 それに加えて長靴は膝あたりまであるこれまたぶかぶかのものなので、部長の 厚意はありがたかったが、とても歩きにくかった。 ぴったりの靴を履いているときとは違い、靴の中で足が動くので、そのまま脱げ そうになってしまうのだ。 「小桜くんには、やっぱり大きいかな? 長靴も歩きにくそうだね。 雪で靴下が濡れるよりいいかと思ったんだけど……」 足先に力を入れて数歩歩いてみた小桜は、積もった雪に足を取られて転びそうに なるのをなんとか平静を装って耐えた。 「……そうだ! いいことを思いついたよ」 そう言ってひらめきのポーズをした部長が、制服のポケットに入れていた左手を 差し出してきた。 意味を理解できずに首を傾げて部長を見ると、彼はいつものにこにこ顔で言った。 「歩きにくそうだから、僕が小桜くんの手を引くよ」 「……え?」 動揺している間に、小桜の右手は部長の左手にさらわれてしまった。 ポケットに忍ばせていたカイロのためか、部長の手はぽかぽかだ。 それを認識した瞬間、小桜はかっと顔に熱が集まるのを感じて、そんな自分にさらに動揺し、繋がった手を振りほどこうとしたが、右手はぐいっと前に引っ張られてしまった。 「さぁ行こう! 不可思議事象研究部、本日の活動開始だ!」 不覚にも、溌剌とした部長の声に気圧されてしまった小桜は、結局触れ合った掌をそのままに歩き出した。 ぎゅっぎゅっと。雪の踏む音で、今にも聴覚に届いてきそうなほどばくばくして いる心臓の鼓動をかき消しながら。
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