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卒業式の一週間前になると、さすがに俺も茉理も落ち着きがなくなり、放課後だけではなく朝も早くから学校に行き、昼休みにも音楽室に入り浸るような状態だった。
一緒に過ごす時間が名残惜しいと感じているのが自分だけではないことに嬉しくなる。
茉理にもっと喜んでもらいたいと、卒業のお祝いに何かプレゼントをしたいと思い、茉理に欲しいものはないかと聞いてみた。
でも、茉理は「気持ちだけでいいよ」と言うばかりで参考にならない。
そんな状態のまま結局茉理の卒業の日が来てしまった。
一応、一番綺麗なハンカチに刺繍をしてみたりしたが、庶民の自分とは違い茉理にはもっといいハンカチをたくさんもっているだろうと思い、渡すには至っていない。
式を終えて、卒業生は記念撮影をするため、思い思いの場所へ散っていった。
迷わず音楽室に向かい、扉を開けると茉理はピアノを鳴らした。
「いらっしゃい、ボクの高校最後のリサイタルへ」
「俺のために何か弾いてくれるの?」
茉理はにこっと微笑むと曲を弾き始める。何の曲かはわからないが綺麗な旋律が心地よい。3曲目にはいつもの曲を弾いてくれる。
それを聴き終えると自然と拍手をしてしまう。
「聴いてくれてありがとう」
「茉理の卒業祝いなのに俺ばっかり貰ったら悪いから……」
勇気を出してハンカチを取り出すと茉理は笑顔で受け取ってくれた。
ホッとしたが、茉理はハンカチを持った俺の手ごと離そうとはせず、じっと見つめてくる。
「な、何?」
「ねえ、ハジメ……今日はボクの卒業をお祝いしてくれるんだよね?」
「だったら、ボクにキミの全てをください」
「全てって……」
「キミのことを抱いてもいい?」
直球で強請られると、答えは「はい」としか言えない。俺も茉理に心も体も全て明け渡してしまいたいのだから。
茉理は俺を向かい合う様に膝の上に座らせると、頬を撫でながら何度も口づけてくる。
招き入れる様に口を開くと、遠慮なく舌で咥内を撫でられる。
「ん……ふっ……」
飲みきれない唾液が口からあふれ出す。苦しくて茉理の胸を押すと、一度唇を離してくれる。
どちらのものかもわからない唾液を飲み込み息を整えていると、茉理は俺のシャツに手をかけボタンを1つずつ外していく。
シャツの隙間から覗く肌に首すじから順に唇を落とす。
チュッチュッと音を立てて強く吸い付かれると少し痛いような気持ちのよいような不思議な感覚が駆ける。
「茉理……もっと……」
気持ちよくなりたい。でも、どう触ってもらえばいいのかわからない。そんな気持ちを察したのか、茉理は:朔(はじめ)の左胸の突起を口に含むと、それを吸ったり舌で転がしたりして柔らかく解していく。その間に右の突起は茉理の指で摘んだり捏ねたりして遊んであげると、朔の呼吸が荒くなり、脚はもぞもぞと落ち着きなく動く。
「も、下も……さわっ……て」
そう懇願すると、茉理は1度いい子だと褒めるように唇に優しくキスをして、朔のベルトとスラックスを寛げる。
「ハジメの、少し濡れてるね……汚れないように脱がせていい?」
そんなこと恥ずかしいから聞かないで欲しいと思うが、制服や下着が汚れてしまうのはまずいと思い、顔を腕で隠しながら頷くと、茉理は器用にスラックスと下着を引き抜いた。
上履きは右足だけ脱げ、黒いハイソックスと左の上履きだけ残して下半身は丸出しという情けない格好だが、2人にとってはそんな他の誰にも見せない姿は興奮の材料でしかなかった。
茉理が一瞬どこか違う方に向いてゴソゴソと何かしているので、朔は不安になり目で追うが、茉理はすぐに戻ってきて安心させるように笑顔を見せる。
「ごめんね、準備が必要だから……」
手に握られていたのは小さなローションボトルとコンドームの箱で朔の顔がみるみる赤くなる。
茉理は自分の指と朔の後孔にローションをたっぷりと塗ると入口をゆっくり解し始める。優しく撫でられると擽ったいのか気持ちいいのかわからなくなる。そうして油断していると、茉理は朔の半勃ちを躊躇いもなく口に含み頭を上下させながら刺激を与えてくる。
前の刺激に喘いでいるといつの間にか後ろも茉理の指を第二関節まで招き入れていたようで、グリッと指を曲げられた瞬間快感が走り背中が仰け反る。
「あ゛あぁ―――っ!」
朔の反応を見て茉理はそこを何度も刺激する。
「やっ……まつ……やめ」
「ごめん、ハジメ…………ボクももう我慢できない」
後孔から指を引き抜かれたかと思うと、カチャカチャと金属がぶつかる音や、布のこすれる音がして、少し身体を起こすと、茉理の欲情しきった表情と、猛るペニスが視界に入る。
「ハジメ、そこにあるゴム……ボクのに着けてもらってもいい?」
茉理の視線の先を見ると右手のすぐ近くに箱が落ちていた。
言われた通り、箱から袋を取り出してゴムを出すが、初めてのことで戸惑っていると、茉理が手を重ねるようにし、つけ方を教えてくれる。
「茉理は……他の人ともこういうことしたことある?」
「まさか……ハジメとシたくて勉強してきただけだよ。ボクはこう見えて勉強熱心だからね」
「ごめんね、ハジメ……本当は顔を見たいけど、きっときついと思うから」
そういうと、茉理は朔の身体を反転させ、後ろから腰を支える形で性器を押し当てる。ゆっくりと朔の内側を押し広げていく。
異物感に息が詰まりそうになるが、苦しそうにしていると茉理は無理に入ろうとはせず落ち着くまで身体を撫でくれる。
その優しさが、朔の心をより切なくさせた。
茉理を奥深くまで飲み込む。初めてだと言った茉理の抽挿は、ぎこちなさがあるけれど、そんなことが気にならないほど一つになれた嬉しさで涙が出た。
お互いの名前を呼び合いながら、指を絡めて。一度目は背中から。二度目は向かい経って、キスをして。時間が許す限り愛し合った。
夢のような時間もいつものようにスピーカーに急かされ終わりを告げる。
脱ぎ散らかした服を着て、身なりを整えていると茉理に後ろから抱きしめられる。
「ハジメ……ボクと一緒に駆け落ちしよう」
茉理の提案に思わず笑ってしまう。
「茉理は頭がいいのにバカだな。俺達が駆け落ちしてどうなるんだよ。金も力もないのに、3日も経たずに連れ戻されるよ」
それでも、それほどまでに想ってもらえるのならそれだけで本望だ。
学校には携帯も持ち込めない。だから別れ際、茉理は俺に自分の連絡先だけ渡して、何度も「ハジメが大学生になったら絶対に連絡してね」と念を押してきた。
もちろん俺から連絡する気はなかったけれど、「わかった」と返事をすると茉理は嬉しそうに笑った。
茉理には残酷なことをしていると思う。
最初は傷つくかもしれない。でも、茉理はこれから大きく羽ばたいていくのだ。だから、きっと素敵な出会いもあって、俺のことなど忘れていく。茉理には幸せになってほしい。そのためには隣にいるのは俺じゃない方がいい。
「茉理、ずっと応援してる。……さよなら」
門をくぐった茉理に手を振る。その姿が見えなくなるまで。
さよなら、俺の初恋。
その光は命尽きるまで、キミのために輝くのだろう。
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