2人が本棚に入れています
本棚に追加
「いやいや、元気な人のあしあとのドナーだから、家内は杖もつかずに歩いておったわい。なんせ、病院生活で、体重が減っていたのが幸いして、家内のドナーは、15歳の女の子の足型とマッチしてな・・・。満開の桜を見て、喜んでおったよ。」
おじいさんは、うっすらと涙を浮かべながら、微笑んで僕を見つめた。
僕の脳裏には、白いベッドで横になっている母親の姿がよぎった。
食べ物を食べないと思って病院に行ったら、すでに末期の大腸がんだった。腹水がたまり、今は、体のあちこちにビニールのストローのような管が何本もついている。本当に、そんな母親が歩けるようになるんだろうか。父親も他界して、兄弟もいない僕には、医者を頼るしかなかった。その医者に、余命わずかと言われ、一日一日、死をまつだけのような毎日に、僕は嫌気がさしていた。どこにも連れ出せず、ただ椅子に腰かけて母親の顔を眺めるだけだった。
だが、本当にドナーが見つかれば、僕も母親に満開の桜を見せる事ができるかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!