あしあとドナー募集中!

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花好きな母親は、季節の変わり目には、庭の花を植え替え、花見だ紅葉狩りだと出かけていた。そんな母親にしてあげられる事が、お金もかからず、自分の歩数分を登録するだけなら、痛くも痒くもない。  僕はおじいさんに会釈をして、地下1階に続く、階段をかけ下りて行った。  「気分はどう?」  仕事の合間に抜けてきた僕に、母親は、薄く目を見開いた。  「今日はだいぶ、ましだよ。それより、会社を抜けてきて大丈夫かい?」  「大丈夫だよ。部下にある程度、任せられるから。それより、あしあとドナーっていう登録があって、一応、1時間分、登録してきたよ。ドナーがみつかれば、健康に歩けるらしいよ。」  「そんなドナーは聞いたこともないよ。こんな体じゃ、歩けてもトイレまでが限界だよ。」  母親のむくんだ顔を見ていると、現実がのしかかってきて、本当に、そんな虫のいい話があるのだろうかと思ってしまう。しかし、あの時のおじいさんの幸せそうな顔が頭からこびりついて離れなかった。利用した人がいるという現実は、たとえ神頼みであっても今の僕の心の支えになっていた。
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